全五十四帖 京都連続語り会によせて 

宗教学者山折哲雄先生から激励のお言葉を賜りました

 

 

 『源氏物語』五十四帖を「京ことば」で語る山下智子さんが、これまで誰もやらなかったこの大仕事を始めてから、もう十年になります。NHKドラマや芝居でキャリアを積まれた山下さんは、この京都の地を舞台に、現代に甦るまれな女房語りとして新たな挑戦をはじめることになりました。

『源氏物語』のほんとうの魅力を、美しい京ことばのリズムにのせて、人々の耳に、そしてそのこころにとどけようというのです。谷崎潤一郎や与謝野晶子の現代訳ではとても経験することのできなかった『源氏物語』の奥座敷の光景を、こころゆくまで味わっていただこうというわけであります。

 山下智子さんの、この大胆で健気な試みを応援して、ここに推薦の辞をのべる次第であります。

 

2015/11/30拝領

 


 

 

『京ことばで語る源氏物語』  

宗教学者 山折哲雄先生 

       『公研(めいん・すとりいと)』より抜粋 2010 年

 

・・・「源氏物語」といえば、若いころから手に取っていたのが谷崎潤一郎の現代語訳である。

が、いつごろだったろうか、谷崎はなぜそれを京ことばで翻訳しなかったのか、という

疑問をもつようになった。王朝時代の人間模様を映しだすのに、いくら何でも標準語は

ないだろうと思ったのだ。そういえば与謝野晶子のも円地文子のも、みなそうだった。

そろいもそろってどうして共通語などと言うおかしな世界になびいてしまったのか。

とりわけ、あれだけ京都と関西の生活を愛したはずの谷崎までが、という思いがつのった

のである。「細雪」でも、美しい上方のことばが使われているではないか。

 もう十年ほど前のことになるだろうか。京都にお住まいの源氏学者、中井和子先生が、

十数年の歳月をかけて「源氏物語」全篇を京ことばで現代語訳されていることを知った。

 さきごろ、京都の東本願寺別邸、涉成園で「京ことば・源氏物語」を朗読する会が催

された。語り手は山下智子さんで、生前の中井和子先生がもっとも信頼されいていた方

である。京ことばの美しいリズムとやわらかな言葉遣いにのって、私のからだがそのまま

王朝時代に飛翔していくような快感に包まれた。石川丈山と小堀遠州の手の入った庭を

背景に、久しぶりにこの世ならぬ時空の旅を楽しませてもらったのである。今では中井さ

んの遺書となってしまった「現代京ことば訳 源氏物語」全巻を、これからも語り続け

るのだという。・・・・・・

 

 


日本人なら、「やまと言葉」を大切にしよう

 

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